壊滅するか日本酪農!

コラム

鎌谷の訴えです!

壊滅するか日本酪農!

抜本的な対策を取らなければ壊滅的な経営に陥る!

今年4月の農水省交渉(要請)では、最後に「首を吊る前に、火をつけに来ますけな~」と言い残して帰ったが、いよいよ酪農情勢は深刻な情勢を迎えている。どの程度の苦境か、またどの程度の乳価値上げが必要なのか。私自身、2016年にクラスタ―事業により酪農団地を新設し、現在搾乳頭数501頭、(成牛600頭、育成牛505頭計1105頭)の酪農経営に携わっているが、少し今日的な状況を整理し、今後の取り組みを考えたい。

2年前の約1.5倍に急騰する配合飼料価格!

円安・ウクライナ情勢等を背景に急速に値上がりする輸入配合飼料価格(図1)。もちろん、配合飼料のみならず輸入粗飼料も円安等を背景に急上昇している。財務省の統計によると、乾牧草の輸入価格は、2022年度前年対比で141.1%(財務省202207月までの速報値)と2022年に入って3割から4割上昇している。粗飼料は餌の価格安定制度は適用されないため、価格上昇はストレートに経営への打撃となっている。乳牛の餌は、26㌔/1日1頭程度で、配合飼料13㌔、草である粗飼料13㌔(乾物)ぐらいだが、今回は、粗飼料の影響は差し置き、配合飼料価格安定制度により補填がある配合飼料の値上がりが、どれほど酪農経営に影響を与えているか見てみたい。

 過去15年の配合飼料の配合飼料小売価格の推移は図1のとおりだが、令和3年に入り急激に上がっている。また、全農配合飼料(全畜種平均)の価格推移と飼料価格価格安定制度の補填による実質的な餌の上昇率をみると、表1のようになる。現状でも補填後の配合飼料価格は令和2年比で、18%程度の上昇となっている。この餌コストの負担増により、経営維持できない酪農家が出てきているなかで、現在2年前の1.5倍になっている配合飼料価格、補填は1年間との差額を前提としており、今後現在の価格が順次実質的な価格として反映されてくることを考えると、正に酪農・畜産農家には地獄が待っていると言わざるを得ない。(※令和4年7月餌価格/2年7月〃=99131円/66281円=1.5倍)

乳価34円/㌔の引き上げまで必要となる経営環境!

まず、令和2年度の生乳生産費を基準に、現在どの程度生産費が上昇し、乳価の値上げが必要な状況にあるかみる。

令和2年度の生産費の試算に当たっては、各地域によって異なる基準乳価、および経営体により異なる乳飼比を変動要因とする。表2の項目3~7、9については、基準単価×乳飼比で算出された餌コスト(1㌔基準乳価に占める餌金額)を基準に、令和2年の生乳生産費(農水省調査)での餌に対する各経費の割合により算出した。なお、項目10.11の人件費、支払利息、施設減価償却については、我が牧場の令和2年度実績によるものを記載している(表3 これも各経営体で異なる)。

試算では、この令和2年度の数値を基準にその後の配合飼料価格(補填後の実質価格)の上昇率(表1による)により餌代を算出、またその他の物財費等は資材高騰、水道光熱費の上昇も考慮し、農機具・医療費等は1.1倍、その他物財費は1.3倍、乳牛償却費等はそのまま据え置いて試算している。

結果は、表2および図2のようになる。現状でいくと、令和2年度収支をトントンとしても、4年度第1四半期ですでに、15.7円/㌔の補填をしなければならない赤字経営となる。

そして現行の餌の安定価格制度であれば、これ以上の餌の上昇がなくとも、1年先に補填がなくなるから、実に令和2年度の1.5倍の配合飼料価格となり、約34円/㌔の生乳の値上げがなければ赤字は解消されない。

11月からの乳価10円引き上げ、10月からの飼料価格高騰緊急対策では本的な解決にならない

令和4年7月-9月の前期比11,400円/㌧の値上げを反映し、安定制度からの同時期の補填は15000円程度と推定される。だが、その補填があったとしても、実質の餌代は、前期比で6200円/㌧の上昇と推定され、令和2年度比較では27%近く上昇する配合飼料の負担が重くのしかかる。

今回の資料価格高騰緊急対策では、飼料価格安定制度の補填とは別に、特別対策の6750円/㌧が交付されることになっている。これは、令和4年4月-6月水準の実質価格水準に抑える措置と思われるが、表1に示すように、すでに同時期の価格でも、令和2年度比で18%程度の上昇となっており、15~16円/㌔前後の乳価値上げが必要な実態である。人件費コストが17.3%前後ということを考えれば、酪農家の現状は実質人件費(所得)がほぼゼロという状況にある。

また、国産粗飼料利用拡大緊急対策として乳牛1頭あたり10000円が交付される予定であるが、平均乳量9000㌔/年の酪農家の7カ月間では1.9円に相当する金額にしかならなく、乳価14円/㌔相当部分の支出増はそのままである。

計算上は、これらの対策と乳価10円アップの改定で、4年10-12月負担は、15円/㌔相当軽減されるが、特別対策が第4四半期以降にも続けられず、価格がこのまま推移すれば、来年度にはさらに24円/㌔の値上げをしなければ赤字は解消されないことになる。

そして、経営収支に係わるその他要因を考えると、より深刻である。粗飼料は実質配合飼料上昇率以上に上がっている。副産物価格が下がっている。経営体によっては、利息・償却等の負担が大きい。それらを考えれば、一層崖っぷちに立たされていると想像できる。

現場の酪農は、ほとんど全滅せざるを得ない局面か!

当牧場では、受精卵移植による和牛子牛の販売、経産牛の肉出荷、バイオマス発電による売電などで、約副産物価格23.2円(㌔乳価換算)の収入(年間108百万円)を得ていたが、最近の状況では、和牛子牛の値下げ、乳牛子牛の暴落、肉の低迷等、この副産物収入減も経営悪化の大きな要因となっている。また、飼料米SGSを3㌔/日(年間120㌶分)を給与して飼料費低減をはかっているものの、良質な輸入乾燥粗飼料の値上がりは配合飼料以上に厳しい。

さらに、ここ数年、全国的にTPP対策として打ち出された国のクラスタ―事業で、大きな投資を行い、規模拡大してきた畜産経営体も多く、利息や施設償却額(返済元金に相当)が大きい農家も存在する。返済もできず、暮らしも生産も立ち行かない農家が続出している懸念が大きい。

実際、専門農協においては、組合員の半数近くが、月の乳代で決済できていないという声も聞く。

組合員は、餌代のほか、種付代、資材代等、経営に必要な餌以外の経費についても、厳しい環境の中で農協に依存せざるを得ない。引落経費が乳代の金額内に収まらない事態が発生してきているのである。

酪農家はもちろん、専門農協の経営問題すら発生しかねない。これまで、急速に減少した酪農家戸数であり、10年前から4割以上減少している。

そのため、国の政策に従い、借金をを行い、生産基盤を守るため規模拡大してきたが、今回の酪農危機により、現状では日本の酪農が壊滅するのではないかと思われる。

生産費を反映した乳価を、経営が継続できる所得補償制度の確立を!

粗飼料の高騰対策はもちろん、配合飼料の高騰対策、配合飼料価格安定制度の補填制度の抜本的な改革が必要である。今後餌価格が高騰しないとしても、下がらない限り、最終的には基金の補填は1年の上がり幅を前提としているため、1年先には実質的には令和2年度の1.5倍の餌代となり、先に試算したように所得どころか㌔乳価換算で34円の経費負担増となる。つまり、10円の引き上げのほか、更に24円の乳価が上がらなければ、トントンにならない。当然、そこまで経営はもたないため、経営破綻は目前となっていると言ってよい。

 自給飼料の確保による餌コストの削減というが、すぐに改善できるものでもないし、むしろ、粗飼料が高騰している部分の一部改善にしか繋がらないであろう。

赤字が垂れ流している状態で、さらに資金繰りもアウトとなれば、廃業せざるを得ない。待ったなしの状態に対する一層の緊急支援措置のほかに、生産費を反映した価格保障(不足払い制度)もしくは所得補償制度等のセーフテイネットの早急な確立こそ不可欠である。

政策とあわせ、消費者の理解と支援を!

 多くの酪農家が倒産の憂き目にあい、供給量が減少し、やっと乳価が上がり、購買できる層だけ購入する。そうした事態になったところで、生産者や消費者にとって何もいいことはない。

しかし、現状の餌をはじめとする経営資材の高騰は、最終的には生乳価格で34円/㌔の値上げを要するものである。酪農家が大幅に減少しようと、この生産費を反映した乳価にならなければ酪農経営は継続できない。酪農家は、500人の子供、いや育成も含めば1000人の子供を養うつもりで牛をかっているが、それが出来なくなるような状態に置かれているのである。

 そして、自給飼料対策であるが、自給飼料の増産と言いながら、5年問題で、転作奨励金をカットし、生産コストをカバーさせないような政策は言語同断である。水田の維持、農地の保全の面で、また食糧の安全保障の面で、農地の保全は最重要課題であり、米作とともに飼料作物は重要な作物である。

酪農家がいなくなり、水田が利用されないようになった時、一体どういった影響が社会や地域に起こるであろうか。そして、酪農家が倒産していけば、消費者も牛乳を飲めなくなる。現行生乳基準価格114円/㌔で市販されている1ℓの牛乳価格は約2倍となっている。当然、34円の値上げは、消費者に取っては、牛乳約70円の値上がり(約3割)となる。といって、「高いから、牛乳はもういらない」ということでよいのだろうか。

社会全体が厳しい状況に置かれているのは確かだが、国民の食を預かる農畜産業の現場は総じて厳しい。酪農だけでなく、和牛繁殖、肥育をはじめとした畜産農家、そして米をはじめ、生産費が保証されない農畜産物にあっては、農家の経営安定は全く保証されていない実態にある。

食料以外は、多くの食品・商品が価格転嫁されている。しかし、酪農畜産・農産物は進まず農家経営は、まさに待ったなしの状態におかれている。

この出口のない、状況を打開するには、生産物を食する消費者の理解と支援など、全国民が真剣に考えて頂くことを望むものである。

事務局より

鎌谷一也様の許可を得て、Facebookに記載頂いた記事を載せました。

鎌谷一也様ありがとうございます。